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【第11回】相続対策は現状把握から始める

相続税額の試算をすると優先すべき相続対策の課題が見えてくる

前回までは、引き継いだ不動産の活用方法についてお伝えしてきました。今回からは、次世代への不動産の引き継ぎ方、つまり不動産の相続対策について解説します。

特に相続財産のうち不動産の占める割合が大きい場合はトラブルになりやすいので、相続財産の多寡にかかわらず、適切な相続対策を実行することが不可欠でしょう。

一般に相続対策と言うと、遺産分割対策と相続税(節税)対策、納税資金確保があげられます。

遺産分割対策は、相続財産を相続人にスムーズに分割、移転するためのもので、不動産を活用した対策としては、分けやすい不動産への組換えや整備、それとあわせて、生前贈与や遺言書の作成等があります。分けにくい不動産がある場合に検討される代償金の準備も、遺産分割対策に含まれるでしょう。

相続税対策は、相続発生時に負担すべき相続税額を減らすための対策で、不動産の購入や建物の建築、賃貸等による相続税評価額の引下げが代表的です。相続税の対象となる相続財産そのものを減らすという点では、不動産等の生前贈与でも同じ効果が期待できます。

納税資金確保は、相続税の支払いに備えて資金の準備をする対策です。不動産を活用した方法としては、不動産の計画的な売却や物納の準備だけでなく、賃貸物件の賃料収入を原資として生命保険に加入する方法も選択肢となるでしょう。

 

相続対策で大切なのは3つの対策のバランス

ところが実際には、いざ相続対策を行おうとしても、何から手をつけたらよいかわからず、先送りする人が少なくありません。相続対策の成功例や相続のトラブル事例を聞くたび、相続対策の必要性を感じつつも、相続財産の種類や家族構成も違えば、相続に対する考え方も人それぞれのため、具体的な実行に進めないのです。

その一方で、相続税対策は数字で効果を訴えやすいこともあり、ハウスメーカーや不動産業者あるいは金融機関等は、建物建築や不動産購入、借入による「節税効果」を営業ツールに取り入れています。相続対策に一歩踏み出せない人にとって、「借金をしてアパートを建てると相続対策になる!」といったわかりやすい提案は受け入れやすいようです。

その結果、ほとんど相続税対策を行う必要のない人でも、勧められるままに大きな借金をして不動産投資やアパート建築に踏み出している例は少なくありません。

そのうえ、建物建築や不動産購入後に、その節税効果や長期的な収支計画を検証することはあまりありません。そのため、その後長い時間が経過して相続が発生したときに、「どうしてこんな対策をしたんだ!」と相続人から不満が出ることもあるのです。相続人のための相続対策だったのにもかかわらず…。

そうならないためにも、まずは、どのような相続対策を優先すべきなのか、その対策により、どの程度の効果を期待すべきなのかなどを把握しておく必要があります。

相続対策を行うにあたっては、バランスが大切です。相続税対策に偏りすぎると遺産分割対策が難しくなるなど、お互いに影響を与えることが多いため、他の対策がそれぞれ無関係に行われるべきものではないのです。

 

相続が発生したと仮定して相続税を概算してみる

相続対策を検討する際に最初に行うことは、今、相続が発生したと仮定して、相続税がいくらになるのかを把握することです。その際は、現時点での相続財産の相続税評価額、相続人、おおよその分け方を決めて、相続税額の試算をしましょう。

あくまで、これから相続対策を検討するためのたたき台としての概算で構いません。相続財産の一覧を作成し、生命保険の保険金も確認しましょう。預貯金や有価証券等はおおよその数字で大丈夫です。また、借入等があればその残債も確認してください。

不動産は時価ではなく相続税評価額となります。路線価を調べて計算してもよいし、固定資産税等の納税通知書の明細に記載されている評価額から逆算してもよいでしょう。税額の計算には、特例や評価減も考慮する必要があるため、国税庁のHP等で確認するか、税理士に試算を依頼してみてもよいでしょう。

この試算を行うことで、全体像が見えてきます。相続税額の概算が把握できれば、まずはそれを支払えるのか、支払えないとしたらどのように準備するのかを検討することになります。相続税額が想像以上に少なく、納税資金を用意するのが難しくない場合でも、遺産分割において兄弟間で引き継ぐ財産の差が大きければ、トラブルにならないような対策を検討しなければならないでしょう。

このように、相続税額の試算をすると、対策すべき課題が見えてくるのです。

 

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代表取締役 CFP®
永田 博宣

 

近代セールス社「ファイナンシャル・アドバイザー」連載~プロが教える不動産の活かし方(2016年2月号)~より転載

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