ハード・ソフトの両面からこれからの時代に合った不動産の活用法を考えよう
はじめまして。株式会社フリーダムリンクの永田と申します。弊社の活動する首都圏では、自宅以外の不動産として、誰も使う予定のない実家や、駐車場、一棟マンション等の賃貸物件、貸宅地等を相続する方も少なくありません。そこで話題に挙がる最大のテーマは、不動産の有効活用と賃貸経営の問題ではないでしょうか。まずは、弊社が支援した実例をいくつか紹介します。
相続した実家土地の活用方法の相談に来たAさん。借入を好まないAさんの考えを優先し、土地の一部を売却してアパート建築資金を捻出することに。土地売却の際には、一定条件のもとで入札方式を取り入れ、できうる限りの手取り額を確保。建築会社の選定では、コンペを実行することで、各社のプランを比較検討することができました。
その後の賃貸経営では、募集情報の公開方法を工夫することで、想定を上回る賃料設定が可能となり、さらに、賃貸借契約における将来のトラブルを防ぐための特約等まで盛り込むことができました。
古くなった一棟マンションを相続したBさんは、賃料の下落と修繕費の増加による収支の悪化に悩んでいました。そこで、バブル期の間取りや設備を改装して賃料を上げる、募集条件を見直して空室を減らす等の収支改善策を検討しました。
ところが、話し合いの中で、Bさんの今後のライフプランや将来の相続を見据えると、思い切って資産の組換えをすることが有力な選択肢になると判断。まずは、売物件情報を幅広く公開することで、希望を上回る価格で売却を実現しました。
その後、相続対策の検討を行い、複数の賃貸用区分マンションに買い換えるとともに、金融資産、保険等の割合を増やし、節税と分割のバランスを考慮した資産構成に。一通りの対策の全容が見えたところで、円滑な遺産分割実現のために、遺言書を作成しました。
一括借上げ制度を解約して収支を改善
相続対策として建築された一棟マンションを相続したのは、サラリーマンのCさん。これまで、賃貸経営にノータッチだったこともあり、管理会社からの入金報告を待つばかりでした。
ところが、建築費のほとんどを借入でまかなっていたプランだったため、賃料収入を借入金の返済にまわすと、ほとんど残りません。マンションの建築会社とは建築当時から一括借上げ制度を利用していたので、空室による収入不足の心配はありませんが、入居者の出入りがあるごとに、修繕費の負担が重くのしかかってきていました。
まずは、借入条件の見直しの交渉をアドバイスし、借入金利を下げることができました。さらに、賃貸需要や賃料相場をあらためて検証し、一括借上げ制度を解約することに。これにより、収支が大きく改善されました。
Dさんが相続したのは飲食店舗が入っている小規模商業ビルでした。昔からDさんの父親が懇意にしていた地元の不動産屋さんに契約書作成、更新を任せていました。
ところが、Dさんが相続してしばらく経ったころ、飲食店が入れ替わるという話に。そこで、既存の故障した造作設備の処分費用を大家と店子のどちらが負担するかについて、トラブルが発生。その昔、途中で店子が入れ替わったにもかかわらず、造作設備等の件について、契約書で取り決めができていなかったようです。
地元の不動産屋さんに相談しても、住宅が専門だからよくわからないという返事で、困った挙句、相談に来ました。私たちは過去の経緯を拾い上げ、問題を整理するとともに、今後トラブルのないように書面を作成しました。
「建てて貸す」だけでは乗り切れない時代に
不動産の活用は、一定の賃貸需要があれば、それなりの収支予想はできます。ところが、実際に運営していくと、想定どおりに収入が得られなかったり、経費がかかったり、賃借人とトラブルになったりすることがあります。
特にこれからの時代は、ただ建てて貸せばよいという時代ではありません。賃借人も権利を主張してきますから、何らかの知識武装が必要になります。
一方で、市場調査の結果、賃貸需要が見込めない不動産の場合には、早い段階であえて手放すことも、その資産価値を守るための有効な手段として、検討できるのではないでしょうか。
そこで、本連載では、いわゆる不動産有効活用の方法の紹介だけにとどまらず、賃貸経営で実際に必要と思われる賃貸借契約の知識や制度、賃貸借契約における最近のトレンド等を理解したうえで、様々な活用方法を検討できるように話を進めていきたいと思います。
不動産の有効活用をハード面だけではなくソフト面からも考えてもらうことで、将来の相続対策を踏まえた安心安全な賃貸経営が実現できることを願ってやみません。
株式会社フリーダムリンク
代表取締役 CFP®
永田 博宣
近代セールス社「ファイナンシャル・アドバイザー」連載~プロが教える不動産の活かし方(2015年4月号)~より転載