賃貸人や物件の状況に応じて賃貸管理業務委託の見直しを検討しよう
賃貸経営を安定的に継続していくためには、賃貸管理業務が非常に重要です。一口に賃貸管理業務といっても、①入居者募集から賃貸借契約締結、更新、解約明け渡し等の契約関連業務、②賃料等の徴収、未集金の督促等を行う集金会計業務、③入居者からの相談や苦情の受付および対応等を行う運営業務、④建物躯体、設備、共用部分のメンテナンス、修繕、清掃等の業務と幅広いものです。
これらの賃貸管理業務について賃貸人(所有者)は、その一部あるいは全部を賃貸管理会社等に業務委託していることがほとんどです。賃貸管理会社としても、その期待に応えられるように、業務ごとに部署を強化したり、メンテナンス、修繕、清掃等を充実させるために専門業者と業務提携したりしています。
一方で、私たちが賃貸物件や賃貸経営に関する相談を受ける中で、賃貸管理会社に丸投げしているため余計なコストがかかっている、あるいは逆に、コストを気にしすぎて賃貸管理業務を自ら抱え込み、結果的に余計な労力や費用がかかっているケースが少なくありません。賃貸管理業務は、大きな問題が起こらない限り見直すことがほとんどないからでしょう。
自主管理方式は低コストだが最新情報が得にくいのが難点
賃貸人が選べる管理方式は大きく分けて3つあります。①契約関連業務だけを不動産会社に依頼して、賃貸人自ら賃貸管理業務を行う自主管理方式、②賃貸管理業務のほとんどを賃貸管理会社に依頼する管理委託方式、③賃貸物件そのものを不動産会社に貸す一括借上げ方式です。
どの方式が最も優れているかといったものではなく、賃貸人の状況や物件の特徴等により最適なものは違ってきます。
①自主管理方式は、主に建物維持管理業務を行う時間があり、賃貸管理業務を自ら進んで行いたいという方に向いています。コスト的なメリットは当然ですが、賃貸管理業務を自分で行うことの充実感も得られます。
デメリットは、賃貸借契約や賃貸運営管理等での最新情報が得にくいこと。そのため、この方法を選択している方は、空室時に入居者募集をしてくれる地元の不動産会社や、他のオーナーとの情報交換会等に、積極的に顔を出しているようです。
②管理委託方式では、賃貸管理業務のほとんどを賃貸管理会社が行うので、賃貸人は自分の仕事や生活を優先できます。入居者からの苦情等もいったん賃貸管理会社が受け付けてくれます。費用は毎月賃料の5%程度となっているケースが多いですが、賃料の滞納保証が付いていたり、修繕や清掃等について有料のオプションサービスがあったりと、業務内容は様々です。
定額コストを負担すること以外のデメリットとしては、契約当事者という立場は変わらないため、万一、訴訟などを起こされたときは、対応せざるを得ないことです。また、敷金は賃貸管理会社が預かることが多く、規模が大きな物件の場合、敷金の運用益を享受できないことも、デメリットといえるかもしれません。
③一括借上げ方式は、賃貸住宅新築と同時に利用するケースが多く見られます。一番のメリットは、賃借人として物件を借り受けた不動産会社が、入居者に転貸する仕組みなので、賃貸人は、入居者が入っていてもいなくても、不動産会社から賃料が確実に受け取れることです。
ただし、数年毎の見直しで、保証される賃料が下げられてしまったというのもよくある話。一括借上げ方式は不動産会社への依存度が高くなりがちなので、契約内容はしっかり理解しておきましょう。また、建物維持管理費用や内装費用についても、競争原理が働かないと割高になるおそれがあることも気に留めておきたいところです。
契約解除を行う際の手続き等も把握しておく
ここまで、代表的な管理方式を挙げました。例えば、働いているときに賃貸アパートを相続で引き継いだ場合は、管理委託方式を利用し、引退後は自ら管理業務を行うために自主管理方式に変更する。借入を多く利用して建築した賃貸物件であれば、一括借上げ方式を利用し、将来、借入返済に余裕ができたときに管理委託方式に変更する。あるいは、自宅横のアパートは自主管理方式で、遠方の物件は管理委託方式で管理する。
このように、賃貸人の状況や物件の特性に応じて、適宜使い分けていくことができれば効果的ではないでしょうか。そのためには、契約解除を行う際の手続き等についても、しっかり把握しておくべきでしょう。
国土交通省の告示による賃貸住宅管理業の登録制度が創設されたのは平成23年。賃貸管理業務は整備中ともいえます。実際、賃貸管理会社によってサービス内容は様々です。賃貸経営を安定的に継続していくためには、賃貸管理業務をどこまで頼むか、そして、どこに頼むかについて考えるのが大切です。
株式会社フリーダムリンク
代表取締役 CFP®
永田 博宣
近代セールス社「ファイナンシャル・アドバイザー」連載~プロが教える不動産の活かし方(2015年6月号)~より転載