相談窓口として各分野の専門家や業者と連携をとり実行支援を行う
不動産の上手な活かし方として、賃貸経営に必要な知識や制度、引き継いだ不動産を活用する方法、不動産の相続対策などについて解説してきた連載も、いよいよ最終回です。
今回は、「不動産を活用した相続対策」をサポートするFPとして、どのような取組みが求められているのかを、①売却、②建築、③購入、④分筆の4つのケースを挙げて解説したいと思います。
① 売却
まとまった資金を作ることができるため、納税資金の確保や遺産分割対策としての換金、買換え、資産の組換えのために売却を行うことが多いでしょう。
不動産の売却は、宅地建物取引業者であればどこでも扱うことができます。ところが、特に価格のわかりにくい物件(区画の大きな土地や収益物件等)では、業者や担当者の力量や思惑次第で売却価格に大きな違いが出るのも事実です。FPとしては、不動産の売却時にお客さまの利益が守られるように、業者や担当者の売却に対する考え方を聞いておきたいところです。
不動産の売却では、譲渡にかかる税金をはじめ、測量や建物解体等の諸経費も必要となる場合があります。最終的な手取り額がいくらなのか、売却代金はいつ受け取れるのかなどにも注意しておきましょう。
資金計画やCFは保守的に検討すべき
② 建築
相続対策で話題に出ることが多いのは、賃貸用建物の建築です。いわゆる不労所得を得ることを目的として、賃貸物件を建てることが土地活用の代表的な手法となっています。税制面においても、建物を建てて賃貸にすることで、相続税評価額を大きく下げることができるようになっています。
建物の建築は、ハウスメーカー等の建築会社に依頼することが一般的です。できれば、1社だけではなく、複数の会社にプランを出してもらうよう依頼しましょう。各社のプラン説明の場にFPが同席することにより、いろいろな角度からプランを比較することができるはずです。
建築資金は融資を利用するのか、あるいは他の物件等の売却代金を充当するのかといった資金計画や、賃貸開始後の賃料収入や諸経費支出を含めたキャッシュフローについては、できるだけ保守的に検討したいものです。そして、建物完成から賃貸運営までFPが見届けることでお客さまは安心できるでしょう。
③ 購入
例えば、まとまった不動産を売却して、複数の区分賃貸マンションを購入することもあるでしょう。不動産を分けやすく組み替えることで遺産分割対策になります。また、相続発生後に売却換金して納税資金に充てることもできます。
物件情報は不動産業者から受け取ることもできますし、物件検索サイトを利用することもできるでしょう。あらかじめ賃貸する予定が決まっている場合には、すでに賃貸中の物件を検討したほうが効率的です。
購入後に受け取る賃料の一部を利用して生命保険に加入することで、納税資金や代償金、あるいは保険料の生前贈与等に活用できるという点は、FPがアドバイスすべきでしょう。
広い土地を分筆しておけば特定の子に相続させやすい
④ 分筆
親の土地の一部に子が建物を建てる場合、土地を分筆しておくことも有効です。あらかじめ土地を分筆すると土地に地番ができるため、遺言書に特定して記載することで、その土地を確実にその子に相続できるようになります。また、融資を利用する際には、抵当権の及ぶ範囲を制限できるので、万一のときに実家に与える影響を最小限にすることもできます。
土地の分筆は土地家屋調査士が行います。道路付けや隣接地の状況にもよって費用も時間も違ってきますので、あらかじめ見積もりをとると安心でしょう。土地家屋調査士は測量して分筆登記を行う専門家ですが、分筆ラインや面積等については、FPが他の専門家の意見を参考にしつつ、事前に所有者と話し合って決めておくとスムーズでしょう。
このように、不動産の有効活用や相続対策は、不動産や建築、リフォーム等の知識だけではなく、税務・法務をはじめ、保険や金融商品、ライフプラン等の知識も欠かせません。そしてその知識を総合的に組み合わせて、比較しながら検討することが求められます。
そのため、個人のライフプラン全体について相談に乗ることができるFPは、不動産の有効活用や相続対策の相談窓口として最適なのではないでしょうか。
今後、不動産活用や相続対策におけるコーディネーターあるいはファシリテーターとして、各分野の専門家や業者と連携をとりながら実行支援する専門家として、FPが広く認識されることを大いに期待したいと思います。
株式会社フリーダムリンク
代表取締役 CFP®
永田 博宣
近代セールス社「ファイナンシャル・アドバイザー」連載~プロが教える不動産の活かし方(2016年3月号)~より転載